授業中にスマートフォンをいじる生徒について

現代の教育現場において、授業中にスマートフォンを操作する生徒の姿は珍しいものではなくなった。スマートフォンは情報収集やコミュニケーションのツールとして生活に深く根付いており、若者にとってはその存在がほぼ不可欠と言える。しかし、授業という学習の場でスマートフォンをいじる行為は、集中力の低下や学業成績への影響、さらには教室全体の学習環境に及ぼす問題として、教師や学校にとって大きな課題となっている。この現象について、その背景、影響、対策を考察する。

1. なぜ生徒は授業中にスマートフォンをいじるのか

授業中にスマートフォンを手に取る生徒の行動には、複数の要因が絡んでいる。まず、スマートフォンの高い中毒性が挙げられる。SNS、ゲーム、動画プラットフォームなどのアプリケーションは、ユーザーの注意を引きつけ、長時間利用させるよう設計されている。通知が届くたびに確認したくなる心理や、短い時間で得られる即時的な満足感は、特に若者の衝動を刺激する。授業中、教師の説明や課題が一時的に退屈に感じられると、スマートフォンがその「退屈」を埋める手軽な手段となる。

次に、現代の生徒を取り巻く環境も影響している。デジタルネイティブと呼ばれるZ世代やアルファ世代にとって、スマートフォンは単なる道具ではなく、自己表現や社会とのつながりの一部である。友人とのメッセージのやり取りや、SNS上での自己呈示は、彼らのアイデンティティ形成に欠かせないものとなっている。授業中にスマートフォンをいじる行為は、こうした社会的つながりを維持したいという欲求の表れでもある。

また、授業自体の内容や進め方も一因となり得る。単調な講義形式や、生徒の興味を引かない教材、インタラクティブ性の欠如は、生徒の注意を授業から逸らし、スマートフォンへと向かわせる。教師の指導力や授業設計が、スマートフォンの誘惑に打ち勝つ魅力を持たない場合、生徒はより刺激的なデジタルコンテンツに流れる傾向がある。

2. 授業中のスマートフォン使用がもたらす影響

授業中にスマートフォンをいじる行為は、個人および教室全体にさまざまな影響を及ぼす。まず、学業面での影響が顕著である。マルチタスクを試みる生徒は、実際には注意力が分散し、授業内容の理解や記憶が浅くなる。心理学の研究によれば、人間の脳は複数の認知タスクを同時に効率的に処理することは難しく、スマートフォンを使用しながら授業を聞く行為は、学習効果を大幅に下げる。実際、ノートを取る生徒と比較して、スマートフォンを使用する生徒のテストスコアが低いというデータも存在する。

さらに、スマートフォンに気を取られる生徒は、授業の流れを妨げる可能性がある。例えば、教師の質問に答えられなかったり、グループ活動で貢献できなかったりすることで、授業の進行が滞る。こうした行動は他の生徒にも影響を及ぼし、集中力の低下や不公平感を生む。特に、スマートフォンを使用する生徒が目立つ場合、他の生徒も「自分も使っていいのではないか」と感じ、教室全体の規律が乱れるリスクがある。

一方で、生徒自身の精神的・社会的な影響も無視できない。スマートフォンに依存することで、対面でのコミュニケーション能力や、集中して一つの課題に取り組む力が育ちにくい。また、SNSやゲームに没頭することで、授業中にストレス解消を図るつもりが、逆に通知やオンライン上の反応に振り回され、ストレスが増大する場合もある。

3. 学校や教師の対応と課題

この問題に対し、学校や教師はさまざまな対策を講じている。最も一般的なのは、スマートフォンの使用を禁止するルールの設定だ。一部の学校では、授業中のスマートフォン使用を全面禁止し、場合によっては授業開始時にデバイスを回収するシステムを導入している。しかし、こうした厳格なルールは、生徒の反発を招くことも少なくない。特に、スマートフォンが生活の一部となっている生徒にとって、完全な切り離しはストレスや不安を引き起こす可能性がある。

一方で、スマートフォンを教育に積極的に取り入れるアプローチもある。例えば、授業で使用するアプリケーションやオンライン教材を活用し、スマートフォンを学習ツールとして再定義する方法だ。クイズアプリを使ったリアルタイムの復習や、グループワークでの情報共有など、スマートフォンを授業に統合することで、生徒の興味を引きつけ、授業外での使用を減らす効果が期待できる。ただし、この方法には、すべての生徒が適切にデバイスを使用するとは限らないという課題や、教師側のデジタルリテラシーや準備の負担が伴う。

ルールやツールの導入に加え、教師の授業設計も重要である。生徒の関心を引きつけるアクティブラーニングや、ディスカッションを重視した授業は、スマートフォンの誘惑を減らす効果がある。また、生徒との信頼関係を築くことで、「授業に集中してほしい」という教師の意図を理解させ、自主的な行動変容を促すことも有効だ。

4. 生徒自身に求められる意識改革

最終的に、スマートフォンとの付き合い方を考えるのは生徒自身である。学校や教師がルールを設けたり、魅力的な授業を提供したりすることは重要だが、生徒が自己管理のスキルを身につけなければ、問題の根本的な解決にはつながらない。スマートフォンの使用時間を意識的に制限する習慣や、授業に集中するための目標設定など、自己調整の力を養う教育が必要だ。

また、スマートフォンがもたらすメリットとデメリットを理解することも重要である。デジタルリテラシー教育を通じて、スマートフォンが学習や生活にどのように役立つか、逆にどのようなリスクがあるかを学ぶ機会を提供することで、生徒はより賢明な選択ができるようになる。

5. スマートフォンの中毒性

授業中にスマートフォンをいじる生徒の行動は、現代の教育現場における複雑な課題である。その背景には、スマートフォンの中毒性、生徒の社会的欲求、授業の魅力不足など、複数の要因が絡み合っている。この問題に対し、禁止ルールの徹底や教育へのスマートフォン活用、魅力的な授業設計、生徒の自己管理教育など、多角的なアプローチが求められる。教師、学校、そして生徒自身が協力し、スマートフォンとの健全な関係を築くことで、学習環境の質を高め、未来の教育をより豊かなものにしていく必要がある。

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この記事を書いた人

瀬下淳志のアバター 瀬下淳志 KOSHIN学院塾長

神奈川県平塚市田村にある高校受験専門の集団個別指導の学習塾です。お勉強が苦手でもお断りしませんが『やる気』は大いに気にしています。